生活習慣病に関するゲノム応答ネットワークの解明と創薬の展望
(Perspective in drug design and genomic responsive network on life style-related diseases: A short cut is often a wrong cut)
筑波大学 先端学際領域研究センター 生命情報機能研究アスペクト
深水 昭吉
【要 旨】
 古くから,ヒトは神秘に満ちた『暗号』に引きつけられ,その解読に時として多くの時間を費やしてきた.『暗号』は,暴かれずに味方に伝達されることが重要であり,傍受する側はそれを解読することに躍起になる.しかし,古代人が石版に刻んだ古代文明の文書は,未来人に判読させないために書かれたわけではなく,単に我々がその文字を読めなくなってしまったに過ぎない.

 それでは,遺伝暗号はどうであろう? 遺伝暗号は「Genetic code」の訳であるが,実は"code"は暗号の特殊な一技法で,一つの単語・フレーズをある法則性を持って記号などで置き換えたものである.遺伝子の場合,アミノ酸がtriplet codonによって"code化"されていることは周知の事実である.すなわち,ゲノムDNAの文字列の一部(遺伝子情報)はcodonによって特定でき,タンパク質に翻訳することができる.

 タンパク質が機能するためには,固有の形(3次元構造)を取る."形"を決める情報は,そのタンパク質を構成するアミノ酸配列に依存し,活性発現に必須の構造を提供する.一方で,特定のアミノ酸残基が化学修飾(メチル化,リン酸化,ユビキチン化およびアセチル化)され,タンパク質自体の構造を変化させることで活性を調節したり,タンパク質─タンパク質の相互作用に基づく複合体形成に影響を及ぼす機構も存在する.

 ヒストン,DNA結合型転写因子および転写共役因子は,生命活動の根元を支える転写反応の中核的存在であるが,標的DNAとの結合親和性や他の因子との相互作用が化学修飾によって調節され転写活性に反映している.特に,転写因子と転写共役因子の相互作用が"転写開始複合体形成のための物理的会合"に過ぎないと考えられていたものが,実は"転写における化学修飾制御のひのき舞台"として脚光を浴びている.

 受容体やその下流シグナルと共に,タンパク質の機能制御機構そのものが創薬のターゲットとなりつつある.統合的なゲノム応答ネットワークを理解することは,時間と手間がかかるが,生活習慣病のような「多因子」による複合病態を呈する疾患の発症機構を解明する一つの手だてである.いかに独創的な視点を持つか,今後の創薬デザインの鍵となるであろう.

【略歴】深水昭吉(ふかみず あきよし)

生年月日:1959年 9月 5日
所属・職:
 筑波大学教授 応用生物化学系 (先端学際領域センター)
所在地:
 〒 305-8577 茨城県つくば市天王台1-1-1
勤務先電話(Fax 兼用)番号:0298-53-6070(直)
e-mail:akif@tara.tsukuba.ac.jp

昭和62年 8月
 筑波大学 助手 応用生物化学系 (遺伝子実験センター)
平成 2年 7月
 筑波大学 講師 応用生物化学系
平成 6年 7月
 アメリカ・Salk 生物学研究所
平成 7年12月
 筑波大学 助教授 応用生物化学系
平成11年 7月
 筑波大学 教授 応用生物化学系 (先端学際領域研究センター)

1997年〜 International Journal of Molecular Medicine (Editorial Academy)
1999年〜 Physiological Genomics (Editorial Board: American Physiological Society)
2002年〜 Journal of Receptors and Signal Transduction (Asian Editor)

平成 5年度

日経 BP 技術賞・医療部門
(日経BP社)

 
平成 5年度

(財)成人血管病研究振興財団研究奨励賞
(高血圧自然発症ラット学会)

 

平成 8年度

つくば賞
(茨城県科学技術振興財団)

 

平成 8年度

奨励賞
(日本生化学会)

 

平成10年度

高峰譲吉研究奨励賞
(日本心血管内分泌代謝学会)

 

もどる