「ゲノム関連発明と特許 −タンパク質立体構造に係る日米欧三極特許庁比較研究−」
 
特許庁特許審査第一部調整課審査基準室 室長補佐
上條 肇
 
【要 旨】
 約10数年前に始まったヒトゲノムプロジェクトは、配列の解析作業がほぼ終わり、遺伝子の機能と構造の解明をめざしたポストゲノムの時代に移行しつつある。遺伝子の情報だけでは、機能を知ることができないタンパク質は多く存在し、タンパク質の機能を理解する上で、その立体構造を知ることが重要であるとされる。

 2000年9月に米国において今後5年間で構造ゲノム科学に取り組む複数の研究センターに約1億5000万ドルの予算が投入され10年間で約1万の構造を決定すると報じられた。

 さらに、イギリス、フランス、ドイツなどでも、それぞれ構造ゲノムプロジェクトが既に動き出しており、日本においても2002年度から、タンパク3000プロジェクトの一部として、5年間で、約2500種のタンパク質の網羅的構造解析を目標としたプロジェクトが開始されるなど、全世界的に解明に向けて取組が進められている。

 これらの状況から、各プロジェクトに加え企業等から生み出されたタンパク質の立体座標に基づいた研究成果(タンパク質の立体構造のデータそれ自身、又はタンパク質の動きを活性化する医薬候補化合物のコンピュータ内でのスクリーニング方法など)に関する出願が今後急増すると予想された。これらはいずれも、従来かけ離れた技術であったバイオとコンピュータ・ソフトウェア(CS)の境界領域に関連したものを含んでいる。

 2002年5月に、日米欧三極特許庁専門家会合において、日本国特許庁はタンパク質の立体構造関連発明の審査実務上の取扱いに関する三庁間の運用の比較研究を行うこと、及び自らを幹事庁としてその取りまとめを行うことを提案し、他の二庁の承認と協力により共同比較研究が進められた。比較研究報告書は、2002年11月に開催された日米欧三極特許庁予備会合・長官会合における採択手続を経て、三極特許庁それぞれのウェブサイト上で11月末より公開されている。この報告書は、「タンパク質の立体構造情報そのものを請求した出願は三極特許庁のいずれにおいても特許を受けられない。」という内容を含み、出願人にとって、バイオテクノロジーの中でも重要な先端分野の一つにおいて、出願書類を適切に作成し、発明を適切に請求項へ記載するための明解なガイドとなるものと考えられる。

 この報告書へは、以下の三極特許庁それぞれの三極ウェブサイトを通じてアクセスできる。

http://www.european-patent-office.org/tws/project_wm4/wm4_report_start.htm
http://www.jpo.go.jp/saikine/tws/project_WM4/WM4_report_start.htm
http://www.uspto.gov/web/tws/wm4/wm4_index.htm

 この比較研究の成果を踏まえ、日本国特許庁では具体的判断事例を示した審査事例集を作成・公表する予定である。

 本発表では、上記、タンパク質立体構造に係る日米欧三極特許庁比較研究報告書の概要及び、ゲノム関連発明と特許についての審査の運用に関する近年の動きについて紹介する。

【略歴】上條 肇(かみじょう はじめ)

平成 6年3月
 東京大学大学院農学系研究科応用生命工学専攻修士課程修了
平成 6年4月
 特許庁入庁
平成10年4月
 特許庁審査第四部生命工学審査官
平成14年7月
 特許庁特許審査第一部調整課審査基準室長補佐

現在に至る

 
 

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